結城 登美雄さんの本の紹介

表紙


  無明舎出版 結城登美雄さん著 「東北むら紀行 山に暮らす海に生きる」より。



ソバの村


飯豊山系山ふところに抱かれた福島県山都町宮古は
ソバで生きる村落である。
三十四戸のうち一二軒が農業の合間に手打ちソバ屋を営む



山間地の暮らしは厳しい。深い雪に閉ざされる長い冬。
山仕事は減り、出稼ぎも高齢化でままならなくなった。
次はだれの番かと離村の不安を抱える状況に歯止めがかかったのは、
十数年前から始めた副業としてのソバ屋。自家栽培のソバをわき水で打ち、
山の幸たっぷりの膳でもてなす。各々の家伝の技と味が評判となり、
今ではどの家にも年間千人を超す客が訪れる。



「この村はソバで救われました」
としみじみ振り返るのは石井民衛さん(73)。
過酷な冬を乗り越えるために、
ここには昔からお互いを支える心があったんです。
それがソバでつなっがった」



峠越えの棚田、深い沢。
けして恵まれた地形ではない。
だがひとつとして荒れている土地はなく、
ていねいに耕されている。
冬の気配せまる西会津の山村景観。
そのひとつひとつが、
これからもこの地を生きるという人々の決意を静かに語り伝えている。



   



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